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「お金は世間に必要なだけ回っていなければダメ」養老孟司

PRESIDENT Onlineに掲載された記事を一部抜粋して掲載いたします。

【養老】ブータンに仏教を持ち込んだ偉いお坊さんがいるんです。その坊さんが説教をした聖地が確か8つぐらいあったんです。それで7つはすでに寺がちゃんとあるというんだけど、最後の8つめの寺がないというんです。それで自分が死んだ後、そういうことを覚えている人がいなくなるのは困るから、そこにお堂を作ってご本尊を安置したいというんです。ただ、ご本尊を作るのにお金が要るから、集めてほしいと。

ブータンには仏像を作る技術者がいないんですね。インドから買うんですよ。僕はその作り方をよく知ってたんですよ、鎌倉の大仏なんかと作り方が同じだから。瓦でつくるんだけど。

それで、いくら必要なんだという話になって、よくわかんないから、今枝由郎さんっていう、チベット仏教の研究者で、ブータン国立図書館の顧問を15年ほどしていた人がいる。その人に相談したら、このぐらいでいいんじゃないかっていう金額を教えてくれたんですよ。そしたら自分の小遣いでもだせると。

たまたま余裕があったんですよ。僕、貯金通帳にお金がたまっていること、これまでなかったからね。だってね、根本の考え方は、お金ってのは世間に必要なだけ回ってなければダメだと。だから自分んところにお金がたまっていては誰かが困ってるだろうと。

【名越】お金を循環させなければと。

【養老】一人もののときは飲んだりして散財していたんだけどね。もちろん家族ができてからはなかなかそれはできないから、ある程度は貯金しましたけど。

それでブータンのお坊さんには、「いいですよ、募金します」と返事したんです。今枝(由郎)さんに仲介してもらって、お金を渡したんだよね。

ブータンでは、僕みたいな年寄りが、こんな年になっても働いていてはいけないという風に言うんだね。

【名越】「ライフ・イズ・ゼロ」だ。死ぬときには何も残すなという。ブータンは仏教の国なので、養老先生ぐらいのお年になると隠居して仏道修行するという感覚なのでしょうか。

【養老】さっきのご本尊がどうなったかというとね。何年かたってブータンに行ったんだよ。するとお坊さんがちょっと困った顔をしているんだよ。お金どうなっちゃったか心配になったんだけど、こう言うんです。

「皇太后がお寺にするといってお金を持って行った」と。

ブータンのお寺は、日本みたいに設計図を引いて建設会社が作ったりはしないんですよ。地元の人が勤労奉仕で作る。お金を出してから出来上がるまでに10年ぐらいかかった。その間、僕は何回か行ったんだけど、つい最近、そこが尼寺になって、お坊さんの養成学校になった。

女房がそのお寺を見たいというから、一緒に行ったら、尼さんの卵が36人いた。学生ですよ。指導教官は6人。大きな立派なお寺になっていました。行ったら勤行していて、お寺を作ってくれた人の健康長寿を祈ってたから、当分、俺、死なねえよ(笑)。

引用(全文):PRESIDENT Online